玉石混交の新書バブルの中、クオリティの高いラインナップが多いちくま新書から、米山公啓氏の新作が出ました。以前紹介した
医者が病院から逃げ出すときも優れた著作であったが、今回も秀作。一般の方に是非読んで頂きたい。ともすればマスコミのサンドバッグと化してしまう医師だが、偏らない立場で医師を取りまく環境がわかりやすく書かれている。
特定健診に対する米山氏の意見は正しいと思う。医療費抑制にはつながらない。なぜか。メタボリックシンドロームの概念の創出に当たっては製薬会社から多額の寄付があったのだ。クスリの需要を増やす方向にその基準が色づけされているのだ。特に高価であるARBやスタチンを大量に処方する方向に誘導してしまう。全く誤りとは言えないが、治療の必要性がない方が含まれているのは事実。
そして、企業に社員の健康改善の責任を負わす(罰則あり)ことで、本来行政の仕事であった健診を民間に丸投げしようとしている、というのも当を得ている。特定健診は「公の負担を減らす」という意味では成功しているのかもしれない。医療費は増大してしまうと思うけれど。
様々な医師のライフスタイル、その収入についても淡々と説明している。これを読んで医師の大学離れは決定的なのだな、と改めて思った。「学位」の神通力はもう無い。若い人ほど大学を見捨てている。臨床研修制度を改めるという報道もあったが、大きな流れは変えられないとみた。フリーター医師の増加についても言及している。開業医の環境の厳しさについても。抑制の効いた表現で、医師のおかれる環境は決して良くないことを説明している。
堺屋太一氏の著作で(どの本だったかは忘れてしまった)
「30年間連続して有利だった職業は無い」という名言がある。例えば、昭和初期なら陸軍士官学校に行って軍人になるのが最高のエリートコースとみられていたが、敗戦でそのレールは途切れた。最高のエリートだったはずの帝国軍人も戦後は公職から追放されて、塗炭の苦しみを味わう。同様に、高度成長期〜バブル崩壊頃までは医学部に行って医者になるのが理想とされた時代があった。我々団塊Jrなどはまさにその洗脳を受けてきた世代である。とにかく勉強して医者になれと。しかし、残念ながらそのレールは途切れてしまった。パラダイムの変化に(我々のような)医師が適応しきれず、様々な問題が起こっているのだろう。医師はもう「有利」な職業ではないのだ。「有利」以外に何か魅力を感じられないと医師を続けられないと思う。堺屋式には「好き」なことをやれ、ということになるが・・・難しい課題である。